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最高裁判所第一小法廷 平成4年(あ)754号 決定 1996年2月06日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大塚芳典、同八谷時彦、同羽田野節夫の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例は事案を異にし本件に適切でなく、その余は、違憲をいう点を含め、実質は事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

所論にかんがみ、職権により判断する。本件は、被告人が代表者をしていた株式会社が、被害者である銀行との間で当座勘定取引を開始し、当座貸越契約を締結して融資を受けるうち、貸越額が信用供与の限度額及び差し入れていた担保の総評価額をはるかに超え、約束手形を振り出しても自らこれを決済する能力を欠く状態になっていたのに、被告人が、同銀行の支店長と共謀の上、九回にわたり同社振出しの約束手形に同銀行をして手形保証をさせたという事案である。そして、原判決によれば、一部の手形を除き、手形の保証と引換えに、額面金額と同額の資金が同社名義の同銀行当座預金口座に入金され、同銀行に対する当座貸越債務の弁済に充てられているが、右入金は、被告人と右支店長との間の事前の合意に基づき、一時的に右貸越残高を減少させ、同社に債務の弁済能力があることを示す外観を作り出して、同銀行をして引き続き当座勘定取引を継続させ、更に同社への融資を行わせることなどを目的として行われたものであり、現に、被告人は、右支店長を通じ、当座貸越しの方法で引き続き同社に対し多額の融資を行わせているというのである。右のような事実関係の下においては、右入金により当該手形の保証に見合う経済的利益が同銀行に確定的に帰属したものということはできず、同銀行が手形保証債務を負担したことは、右のような入金を伴わないその余の手形保証の場合と同様、刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの)二四七条にいう「財産上ノ損害」に当たると解するのが相当であって、これと同旨の原判断は、正当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高橋久子 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

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